11月から開催されている国立科学博物館特別展「毒」を見に行ってきました。
自然界にはさまざまな毒が存在します。
「毒と薬は紙一重」というように、生命を危うくする毒もあれば、生命を助ける薬にもなるものもあるわけです。
例えば、トリカブト(鳥兜)。
トリカブトは日本三大有毒植物として知られ、植物全体に毒性があり、花粉にさえも毒があります。花粉がハチミツに混じったものを食すと中毒をおこす恐れがあります。
日本全国の山地で見かけることも多く、品種もさまざま。
秋に咲く花の色は青紫色から赤紫色で、群落をつくって咲くこともあるそうです。
特に、根部には強い毒性があり、間違って食べると、全身のしびれ、呼吸困難、そして死に至ります。
(京都武田薬用植物園にて)
しかし、逆にこの毒性を活かして、中国では昔から薬用として使用していました。
根の太い部分(主根)を烏頭、根もとにある短い地下茎の部分(側根)を附子といいます。この附子を他の生薬と混ぜた漢方処方は、神経痛、リウマチ、心臓病などの症状の治療薬として用いていました。
現在でも、漢方薬のひとつとして毒性を弱めたものが配合されて使用しています。
一方、古くは狩猟民族でもあったアイヌの人々は、矢の先にトリカブトの毒を塗った矢毒を放ち獲物を収穫していました。
獲物はトリカブト毒によって神経麻痺を起こし動けなくなるのです。
こういった狩猟は、アイヌ民族だけではなく、ブラジルやペルーなどの南米先住民でも、東南アジアでも矢毒を利用した狩猟が行われていました。
彼らはトリカブトではなく、クラーレという植物の毒を同じように矢先に塗って狩猟をしていたのです。
このように歴史を振り返ると世界各地での矢毒文化圏が存在していたことがわかります。
この毒で殺した動物の肉をヒトが食べても大丈夫か?ということが疑問に残ります。
有毒な成分は人間の体内で化学変化を起こして、毒性が無毒化されるので食べても大丈夫だという説明パネルが展示されていました。
サスペンスドラマの中でもよく使用されるトリカブトは、いずれにしても少量でも死に至る有毒植物なので、山で見つけても絶対に触ってはいけない、近づいてはいけない植物です。
今回の特別展は、私たちのまわりにあるさまざまな毒や毒をもった生物の展示だけではなく、毒と生物の進化の関係、人間がどのように毒を利用してきたのか、その歴史の振り返りもありました。
科学の進歩による毒の解明も、さらにその研究の成果も紹介されていて見ごたえがあるものになっています。
面白かったのは毒をもつ生物の拡大模型が精巧に作られていたことです。
ハブは実物比の約30倍、オオススメバチは約40倍、セイヨウイラクサ(ネトル)にいたっては約70倍と拡大化されていました。
この特別展の「毒」のなかにセイヨウイラクサが出てきたのにはビックリ。
メディカルハーブではセイヨウイラクサは有毒植物にはなっていません。
しかし、セイヨウイラクサの茎、葉の裏には鋭い棘があります。
その棘にはアレルギー反応を起こすヒスタミンやアセチルコリンが含まれており、刺されると神経が刺激され鋭い痛みを感じます。
また、ヒスタミンによって蕁麻疹を発症することもあるので、そういう意味での「毒」ということで展示がされているようです。
「毒」は植物だけではなく、動物、鉱物、菌類、火山性物質、化学物質など広い範囲の展示がされています。
菌類の展示コーナーでは毒キノコ類もありますが、日本では法律で禁止されているマジックマッシュルームもありました。
火山性物質コーナーには、なんと古代ローマ時代「博物誌」を著したプリニウスの写真がありました。
なぜなら、プリニウスはイタリアのヴェスヴィオ火山の大噴火で亡くなったことが知られています。毒性の強い火山性ガスに直撃されて犠牲となっています。
中世ヨーロッパにおいても日本でも「肌の白さ」は美しさの重要な要素になってた白粉を塗ることで肌の白さを演出していましたし、「伊勢白粉」は水銀を主成分としていました。
江戸時代の浮世絵に描かれている美女、歌舞伎役者、花魁たちもみな毒性のある鉛や水銀で作られた白粉を塗っていましたので、肌だけではなく体の健康には何らかの影響がでていた可能性は否定できません。
今回、幅広く展示されたものに関しては、ケシなどの植物撮影、動画以外は写真撮影が許可されています。
写真も撮りながらゆっくり回ると結構な時間がかかります。
コロナ禍ですので予約は必須ですが、修学旅行生も入場してくることもありますので、時間帯を選んでお出かけになるといいと思います。
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